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2018.12.19更新

「馬は土曜に…」

 近所の「世田谷文学館」で、「筒井康隆展」を見てきた。記者思う、ワクワクする 作家…のトップ10に、昔も今も入っている。奇想天外、卓抜したセンスとユーモア、 同時におおむね強烈な毒があること。膨大かつ多彩な作品群に改めて驚かされた。平 日夕刻ごろ、ふだんは閑散とした世田谷文学館が、中高年男性から若い女性、さまざ まな人びとで賑わっていた。惹きつけるものは、やはり“天才”なのだろう。事実、 氏は12歳のとき、大阪市知能検査でIQ187と判明し、以後「特別教室」に移された …そんな経緯もあったと聞く。

 会場は、筒井氏・出生1934年から現在2018年まで、生い立ち、作品ヒストリーに、 世情及び社会の動き、年齢と同じ84枚のパネルで構成されていた。記者展覧会ノウハ ウなど詳しくないが、見学者感覚としてはきわめて秀逸。文壇事情と時代の流れ、じ わりと揺り動くような景色が立体的に浮かんでくる。達筆かつ丁寧な肉筆原稿、自ら 描いたイラストレーション、さらに油彩画。もっとも氏は音楽にも多才で、ピアノ、 ギター、クラリネット、すべて玄人肌らしい。山下洋輔氏と数回に渡るライブコラ ボ。改めてスーパーマン、そうだったのか…と納得した。

 かたわらに「筒井康隆・作品マップ」があった。ジャンルが広すぎて限定できな い。SF ナンセンス ミステリー パロディ ピカレスク ファンタジー ホラー  エロティシズム…。一方正統的な、社会風刺、歴史小説も多数にわたる。「ジュブ ナイル」とは初耳(競馬レース名以外では)だったが、これは少年少女向けというこ とで、代表作とされる「時をかける少女」などが入るらしい。一見無頼派、アウト ローにみえながら、繊細(リリカル)、感傷的な作品も少なくないこと。繰り返す が、とにかく多彩。氏の頭脳は、たぶん一人間の領域を超え、広大な“宇宙”に近い とイメージする。

       ☆       ☆

 帰宅して本箱を捜索。目当ての古い文庫本が見つかった。「馬は土曜に蒼ざめ る」。あまり著名でもない短編だが、記者個人的に思う隠れた傑作で印象深い。交通 事故で身体は死亡、しかし大脳だけ残っていた"おれ"が、自身の所有馬にその大脳を 移植し、ダービーに出走する(大穴演出、大儲けをたくらんで)―そんなお話。「目 が覚めたら、とにかく馬になっていた」…カフカ風導入から始まり、一気にずんずん 引き込まれる。「読者諸君。まぐさがどんなにうまいか知っているか。おれも食うま ではまずいに決まっていると思っていた。ところがうまいのである。それはちょう ど、ドレスをきかせた野菜サラダにスパイス入りケーシングを混ぜたような珍味だっ た。嘘だと思ったら食べてみるといい」。ハヤカワ文庫。奥付け昭和51年刊だから、 記者、日刊競馬入社の年に読んでいる。

 奇想天外と荒唐無稽…は、紙一重なのかもしれない。ただやはり傑作とは改めて 思った。ぶっ飛ぶようなアイデアと発想はもちろん、紡ぎ出される文章のテンポ、リ ズムが素晴らしい。ハラハラドキドキ、ときに爆笑。再読なのに、味わい、噛みしめ るいとまもなく、あっという間に物語が終わった。もっとも筒井氏は、元来さらに毒 (アク)の強い小説が真骨頂で、先述ジャンルでいうならホラー、ブラック、ピカレ スク。たとえば「問題外科」「陰悩録」「最後の喫煙者」など、現在の社会風潮なら 発禁本になってもおかしくない。事実、1993年、「てんかん・差別問題」が起こり断 筆宣言(4年後再開)。ただその一連作品、常識を超え道徳を超え、圧倒的にオモシ ロイこと。それこそ嘘だと思ったら読んでみればいい…とおススメする。

       ☆       ☆

 近刊「偽文士日録(にせぶんしにちろく)」を読んだ。日記形式、日常と想いをス トレートに綴ったもの(2008〜2012年)。描いていた”筒井像”は大きく崩れず、同 時に、ああなるほど…の新鮮さもあって満足した。売れっ子創作者から巨匠、大御 所。立ち位置(他人から見る)は変わったが、しかし84歳、仙人の生き方はしていな いこと。ほぼ連日の美酒、美食。宿泊は常に一流ホテルで、移動はおおむねハイ ヤー、タクシー。そしてヘビースモーカー。「東京から神戸の新幹線で、喫煙ルーム に4度行った」と正直(?)な記述がある。きわめつけは「煙草値上げ。国民健康で はなく税金目的はわかりきっている。本当に国民健康を思うならガソリン税だ。いっ そ煙草は一箱1万円。こっちは時と所かまわず大威張りで喫煙してやる…」。嫌煙の 方には論外の発言だろうが、記者などには正直痛快。ただ、以後こちらの情勢はいよいよ厳しい。

 もっともこの本には、自ら記した“序文”があった。「気付いたら、芝居やテレビ で、俳優として文士を演じることが多くなった。茂吉、鴎外、漱石…。ならば現実に も文士のパロディをやってやろうではないか。髭、庄屋造りの家、着流し。はじめて みるとこの文士という衣装はなかなかよろしい。威張ったり我儘を言ったり酔っぱ らったりしても、さほど不自然ではない。珍重される」。演じる…ことが好きで、ソ コソコ上手で、しかし生来性格にシャイな部分もあったと推測する。実際19歳(同志 社・演劇部在学中)のとき日活ニューフェイスに応募して落とされ、以後60余年、 ずっと日活を恨み続けているというエピソードを読んだ。おれ流…というよりおれさ ま、そんな生き方を演じている。

       ☆       ☆

 平成ラストイヤーだから少し付け足し。今年の新刊ベストセラーは、@「君たちはど う生きるか」 A「大家さんとぼく」 B「ざんねんないきもの辞典」…と新聞に あった。記者はたまたま3冊とも読んでいて、無用の解説がつけたくなった。

 @は、吉野源三郎著、昭和37年初版。それを羽賀翔一氏が漫画版でリニューアルし た。テーマは正義と勇気。記者、小学生5年時に読んだ記憶がある。再読理由はノス タルジーだが、いま読んでも、まっとうであり心に染みた。中高年は総じて正義が好 きだ。現実に自分がそれを貫けなかった悔いがあるかもしれない。
 Aは、お笑い芸人、矢部太郎さんの漫画で、そのテーマといえば、ほのぼの、こだ わり…になるのだと思う。読後感はしみじみとして、しかしちょっと寂しい。大家さ んが高齢(80〜90代)だからか。ともあれ漫画家(作家)は、改めて凄いと思う。脚 本、舞台、演技、すべてを一人でやり切るような仕事である。
 Bは、動物たちの進化…をさまざまいろいろ探ったもの。へえ、そうなんだ、うな ずき感心しながら、友人知人と話のネタにも活用できる。で、テーマは、ざんねんで もいいじゃないか、2位じゃいけないんですか…の気分とも通じている。同感。ただ ニホンザルはお尻が赤いほどモテる…など、ある意味ナマナマしい考察もあり、それ が”ざんねん”かどうかは、正直よくわからない。







吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa

日刊競馬南関東公営版解説者

スカパー!・品川CATV大井競馬解説者、ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。




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