トップページ
2019.04.16更新

「永遠の名手」

 稀代の名手がステッキを置いた。石崎隆之騎手、63歳。通算6343勝(JRA含む)。地方全国リーディング10度。1994年、ワールドスーパージョッキー優勝。“稀代の”という形容は、誇張ではけっしてない。少なくとも地方競馬では、見たことがなかった、たぶんこれからも見られない…記者個人的にはそう思う。積み重ねた記録、数字はもちろん、毎日毎日、1レース、1レースの騎乗に、それを超える密度があった。適格な言葉が浮かばない。あえて探せば、並み外れた探究心と集中力か。繰り返すが、毎日1レース、1レースが、とにかく濃密な騎乗にみえた。

       ☆       ☆

 冒頭から、何やらわかりにくい話になった。同年代(62歳)、終生ライバルとなった的場文男騎手、その対比で説明する。二人の騎乗流儀(基本的な)は対称的で、的場が攻めに攻めるファイターなら、石崎は相手の動きを見ながらカウンターを狙うボクサー…そんな感じ。トップに昇る、一流への道のりは的場の方が順調かつ早かった。しかしその後、石崎がひたひたと迫って追い越し、それからしばらく、数字以上に“レースの質”で圧倒した。馬に乗れない、親しくさわった経験すらない記者がおこがましい。ただ毎日馬券を買ってレースを見る、それなり懸命(なつもり)だから、感じるものはやはりあった。石崎が普通ではないこと。常に冷静沈着で、しかし一方、勝利に貪欲なこと――。

       ☆       ☆

 かつて出川克己調教師に聞いた。「彼(石崎)は、自分の乗るレースで、5つも6つも作戦を立てている。こうなったら、ああなったら…。他にいない騎手。だから勝てるし、頼むわれわれも信頼する」。丁寧なこと、綿密なこと。出川師はアブクマポーロとの最強コンビ。ただそれとは別に石崎は、仮に最下級の条件、たとえば高知で一世を風靡(?)したハルウララに乗っても、たぶん練りに練った作戦を胸にゲートイン…と想像できる。「競馬新聞はね。いつも熟読してますよ。馬の力関係とか、展開がどうなるかとか。思いめぐらすときがけっこう楽しい」。趣味は何か、たずねてみた。囲碁か将棋か。「趣味? あんまり時間がないんだけど。床屋さんの散髪と、マッサージかな…」。穏やかな笑顔で首をふった。もっとも、麻雀が好き、船橋騎手仲間としばしば卓を囲むとは後で聞いた。

       ☆       ☆

 (一流とされる)ジョッキーとの取材、会話。「どんな馬が好き?」そう聞くと、おおむね「速い馬…」ノータイムで答えが返る。ある意味当然。しかし石崎は違った。「速い(強い)馬は楽だけど、自分の想い通りに動いてくれる…そういう馬が一番好きかな。乗り甲斐がある」。快速馬にまたがり、一気に飛ばしてさあどうだ…そういう競馬には満足しない、その心持ち(意気)が、まさしく“稀有”と何度も感じた。「ダートの競馬なら、たとえば馬の距離適性なんか、乗り方ひとつでどうにでもできる、今はそう思って乗っている」。40年を超える騎手生活、走馬灯のように浮かぶさまざまな名場面。それが古くはトムカウント(帝王賞)であったり、やや新しくはセレン(大井記念)であったりと推測する。この2頭は天才型オールマイティではない。石崎が感性と執念で育て上げた、そんな駿馬だ。

       ☆       ☆

 重賞請負人…の異名があった。通算189勝。ただ、乞われ頼まれ、エリート馬に乗る状況も当然多いが、人気薄の初騎乗、一転“凄い馬”に仕立てしまう…むしろそんなケースが記憶に深い。平成19年・浦和桜花賞、マルノマンハッタンという馬(6番人気・単勝20倍)がいる。記者当時の回顧記事。「内枠から絶好のスタート。それを“忍びの術”でも使ったように、するする中団のインへ下げた。3〜4コーナー、絶妙の位置から仕掛けて完勝する。さすが石崎、なるほど石崎、考えて乗ること。イメージ通り馬を御すこと。その技術、勝負勘に改めて敬服した…」。引退へ寄せた、息子・駿騎手の談話を読んだ。「父のレースは子供の頃からずっと見ていた。とにかくうまい人で勉強になることがたくさんある。一番は仕掛けのタイミング。道中けっして慌てず、どうやったら勝てるのか、誰よりも知っていたと思います…」。そして駿騎手も父ベスト騎乗に、この桜花賞をあげていた。

       ☆       ☆

 それでもアブクマポーロのことは、やはり書きたい。平成10〜11年、帝王賞を勝ち東京大賞典を勝ち、かしわ記念、川崎記念(連覇)、古馬GIをすべて制した。どういえばいいか、当時同馬には、ため息、深呼吸…という言葉がまさしく似合った。ラスト1ハロンの脚さばき。迫力、凄みはもちろん、常に持ったまま、しなやかのびやか、双眼鏡を持つ手に震えたがきたのを思い出す。そして石崎は、同馬にまたがったときだけは、勝負に腐心することなくポーロをどう魅せるか…そのパフォーマンスに徹していたとふり返る。一つ思い出した。ポーロ初挑戦の東京大賞典(当時2800メートル)、トーヨーシアトル、キョウトシチーに敗れた(3着)直後の記者会見。「距離が長いか?」の質問、いかにも不機嫌そうに「そんなことはない」と断言したこと。愛馬への絶対の信頼感、乗り方ひとつで…の自負と悔しさ。飄々淡々をむねとする彼が、珍しく感情をあらわにした。もっとも翌年大賞典(2000メートル変更)は石崎=ポーロ、見事な雪辱。メイセイオペラに21/2馬身差完勝で留飲を下げた。

       ☆       ☆

 3月15日、船橋競馬場・引退セレモニー。記者ライブ体感できなかったが、聞いた言葉にはうなずかされた。「騎手として最高の人生。今まで乗せてくれた馬に感謝します」。オーナー、調教師、厩舎スタッフ、常に気遣う律儀な人柄を知っている。しかし最後の言葉は、“人”ではなく“馬”に感謝――。もう一つ思い出した。はるか昔、雑談ふうに話したこと。「今まで乗った中、最も強いと思う馬は?」。 アブクマポーロでも、トーシンブリザードでもなかった。「コスモノーブル。あれは強いよ。厳しいところ、自分がここと思ったところで必ず伸びる。」同馬は現在全廃されたアラブ種で、しかし通算62戦22勝、平成4〜5年、サラブレッド相手に報知グランプリCを見事な差し切りを演じている。コンビ16勝。改めて彼好みの馬だった。同時に昭和、平成の終焉、そんな感傷も禁じえない。







吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa

日刊競馬南関東公営版解説者

スカパー!・品川CATV大井競馬解説者、ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。




【バックナンバー】




格安「新聞」印刷

個人のお客様も歓迎!
結婚記念日や還暦のお祝いなどにどうぞ。
料金は41000円(税別)からと格安でお請けいたします。一生に一度の記念日に、あなたが1面を飾る素敵な新聞はいかがですか?

その他にもフリーペーパー、個展・コンサート・学園祭などイベントのチラシ、地域コミュニティ紙、各種後援会会報、販促ちらし、学生新聞など予算を抑えつつ大量に必要な場合に最適です。 まずは下記ページをご覧になり、メールにてお問い合わせください。不明な点などがありましたら、丁寧にご説明いたします。

■お問い合わせ
  sanpei01@nikkankeiba.co.jp

詳しくは≪有限会社三平印刷所ウェブサイト≫をご覧ください。




日刊競馬トップページ
株式会社日刊競馬新聞社 東京都品川区大崎1-10-1