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2017.09.01更新

「晩夏の黄昏」

 8月某日
 「マジックアワー」を体験した。写真用語らしい。夕陽が沈み、その直後20分ほど幻想的、神秘的な空が広がること。まだカンカン照りの午後3時、郊外シネコンに入り、ちょうど出てきたところで幸運に遭遇した。駅前ロータリーと東名高速が交差する地点。行き交う車のライト、太陽の残り香、金とオレンジの色彩が、夜のとばりダークブルーと絶妙な景色を創り出す――。洒落てみたつもりだがうまく書けない。「光源となる太陽が沈んでいるから影がない」とはウィキペディアで読んだ科学的解説。それもちんぷんかんぷんだが、マジックアワーという言葉自体に憧れていたから、瞬間ごくストレートに感動できた。

 見ていた映画は「ちょっと今から仕事やめてくる」。タダ券をいただき、もうぎりぎりになっていたが、想像以上に面白かった。北川恵海・原作、成島出・脚本監督。ノルマの厳しい会社、パワハラ部長の横暴に疲労困憊していた主人公が、駅ホーム、幼なじみ(と称する男)に転落事故から助けられ、以後交流の中で本来の明るさ、やさしさをとり戻していく…そんなお話。ひらめきとか意外性はないけれど見終わってホッとする。予定調和、ハッピーエンド。「ブラック企業の重罪」「若年層の不運と難儀」「友情の行き違い」「でも若いってやっぱりいいな」。お人好しというより、陳腐で感性が甘い結論に終わった。

       ☆       ☆

 某日
 ひまわりを見に行った。神奈川県座間市・ひまわり祭り。電車小田急線なら「座間」、JR相模線なら「相武台下」、どちらも駅からかなり歩く。少し考えて風情がありそうな(?)後者を選んだ。午後3時、あいにく天気はパッとせず、しのつく小雨に加えときおり雷鳴。それでも相合傘で向かうカップルの姿もあり、後をつけるような形で“会場”へ到達できた。面積5.5ヘクタール、計45万本。数字は即座にピンとこないが、現実に目の前に広がる光景自体、爽快かつ壮観だった。“祭り”らしいアトラクションや模擬店が見当たらなかったのは、悪天候のせいかもしれない。若い女性グループが多かった。みなはしゃがず行儀よく、スマホ撮影にいそしんでいた。

   お嬢さま方の会話を聞くともなしに聞いていた。「ひまわりって、なんか懐かしい匂い…」「うーん、花の香りじゃないけどね…」「ええっ…ワタシ、匂い感じないんだけど…」。思わず近づいて鼻を寄せた。正直には埃り臭い、あるいは青臭い、土臭いような匂いだろうか。確かに芳香とはまるで違うが、もしかするとこれこそ太陽の匂い…かと思い当たった。素朴で飾らず、しかしいつも元気いっぱい。そういえば春に出かけた、二宮・菜の花畑も確かこんな匂いだった。ただ改めて周囲を見渡せば、水田が遥か彼方まで続いている。スックと立った青稲の凛々しいこと。イネの花をじっくり見たのは初めてだった。小さくて真っ白で可愛らしい。

       ☆       ☆

 某日
 東京に猛暑がぶり返した日、甲子園が終わった。ふと思い出して、須藤靖貴「どまんなか」を再読した。県大会(埼玉)1回戦負けが当然になっていた「大代台高校」が、監督のユニークな指導、部員の団結で、ついには甲子園へ駆け昇る――。1〜3巻に及ぶ長編だが、軽快なテンポで飽きさせない。熱血とかスポコンとはもちろん違い、それでいてぐいぐい引き込まれてしまうお話に改めて感心した。で、監督の指導とはいったい何か。「練習では走り込み、投げ込み禁止、試合ではバント、けん制球禁止。そして投球はどまんなかへ力の限り」。著者は県立松山高校野球部を取材、発想を得たという。今夏優勝・花咲徳栄高校。同じ埼玉県北部だから、たぶんこの小説は再び売れる。

 巻末に、松井秀喜氏が解説(推薦文)を書いている。記者、以前から松井ファンだが、読後しみじみ惚れ直した。明快素直、しかし重みのあるしっかりしたメッセージ。講談社文庫「どまんなか1」それだけのために購入しても(610円)、けっしてムダではない気がする。彼が星稜高校時代、周囲の騒音は別にして、いかにその日々(16〜18歳)を真摯に過ごしてきたかということ。「これからの夢? よく聞かれます。たくさんあるけれど、その一つは“高校野球の監督”です。そんなふうに答えたい自分がいる。指導者として野球の楽しさ、厳しさ、もっと言えば人生を教えようとしたら、高校野球が一番と思うからです」。そういえば「どまんなか」大代台高校監督は、社会科教諭という設定だった。

       ☆       ☆

 某日
 土曜公休日は、通年ほぼ不動の行動パターンがある。東京競馬場に出かけて馬券を仕込み(今は新潟場外)、しばらくぶらぶら散歩、その後、岩盤浴温泉(府中駅前にある)にシケ込むこと。ただこの日は馬券購入後、しばらくぶりで隣接「競馬博物館」に立ち寄った。以前も書いたが、この博物館は素晴らしい。競馬ファンなら言うに及ばず、それこそ老若男女、誰もが楽しめるスポットといつも思う。サラブレッドの歴史、競馬場の歴史、日本と海外、広く網羅した名馬の歴史。何度も繰り返し眺めた展示なのに、自分にとってそのたび新鮮。うなずいて、ため息が出たりする。入場無料…にもかかわらず、おおむね閑散としていることも、正直記者などにはありがたい。そして今回は「競馬場今昔物語」「競馬と鉄道」という新しいテーマ展があった。

 競馬と鉄道。驚いたのは「登戸に競馬場があった」こと。「昭和2〜8年、多摩川土手に楕円形、1周700メートルの競馬場が開設され、春と秋に大レース2つ、大観衆で賑わった」という。初めて聞いた。実は記者、若いころ登戸多摩川沿いのアパートに住んでいて、その競馬場跡、間近とされる「南武線・河原第三踏切り」は、何度も渡った。だいたいサンダル履き、開かずの踏み切り…だったような記憶がある。ともあれ、馬と人と競馬場、今さらながら親近感が強くなる。その時代、近辺競馬場、厚木、相模原、藤沢、少し離れて柏、川越…だから、愛好者は恵まれていたかもしれない。昭和初期とは、戦争に向かいたなびく黒雲は別にして、ある部分、ウキウキする空気があったと想像した。松たか子、黒木華で映画にもなった、中島京子「小さいおうち」を思い出した。

       ☆       ☆

 某日
 8月最後の公休日、快晴。どこへ出かけようか、少し迷ったが結局「小田原競輪」にした。毎年、盛夏8月に開設記念「北条早雲杯」が行われる。その決勝に渡辺一成、神山雄一郎が出ていた。渡辺晴智もベテラン個性派で好きな選手だ。競輪場は駅西口から小田原城をはす向かいに見ながらゆるゆる坂を登っていく。無料バスで5〜6分。歩くとすると中高年には少しつらいか。現地観戦は何年ぶりと考えた。20年ぶり、いや、たぶんもっと昔。甲子園のラジオ実況が、場内で聞こえていた記憶があった。確か、春日部共栄VS常総学院の準決勝…。とすると1993年、兵庫・育英高校優勝。改めて四半世紀などあっという間だ。

 もっとも小田原競輪場。そのたたずまいと雰囲気は、あきれ返るほど変わりなかった。正直には狭くてきたない。33バンクだから狭いのは仕方ないが、古びたスタンド、足元が危ない階段、場内に雑然と立ち並ぶ、ちょっとあやしい(衛生上?)飲食店。しかしそれが逆にホッとするから、不思議でもある。レトロであり昭和的。「バカヤロー」「金返せ」「ありがとう」「よくやった」……簡潔にして直接的、厳しくも暖かいヤジと拍手も、あきれ返るほど変わりなかった。

 決勝戦。1着ゴールは、若手成長株、記念初優勝という山岸佳太27歳(茨城)だった。いわゆる赤板先行、2周を逃げ切ったのだから、彼の将来はおそらく明るい。2着も筋違いの伏兵・渡部哲雄(愛媛)。2車単、31490円だから、これは凡夫のとれる車券ではない。当たったら、小田原駅前、蒲鉾「かごせい」あたりでお土産…などと思っていたが、まあしかしO157の季節でもある。帰途無料バス、そのままおとなしく小田急線急行に乗って居眠りした。







吉川 彰彦
Akihiko Yoshikawa

日刊競馬南関東公営版解説者

スカパー!・品川CATV大井競馬解説者、ラジオたんぱ解説者
 常に「夢のある予想」を心がけている、しかしそれでいてキッチリと的中させるところはさすが。血統、成績はもちろんだが、まず「レースを見ること」が大事だと言う。その言葉通り、レースがある限り毎日競馬場へ通う情熱。それが吉川の予想の原点なのである。




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